続がん50話
16 標的分子を見つける
井上正宏
前回に続き、「分子標的治療」の話です。
がんの増殖や生存に欠くことのできない分子が、がん科学研究の結果で明らかになりました。現時点で6種類の分子標的薬が、がんの治療薬として日本で保険適応が認められています。
小分子化合物では、イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブの3種類です。イマチニブはBcr-AblおよびKITという細胞の表面に存在して増殖の指令を伝える物質で重要なチロシンキナーゼ(酵素)の働きを抑えます。白血病の一部と消化管間質腫瘍(しゅよう)に使えます。ゲフィチニブとエルロチニブはともにEGFR(上皮成長因子受容体)のチロシンキナーゼ活性を阻害します。非小細胞肺がんに使えます。
抗体では、リツキシマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブの3種類です。リツキシマブはCD20というリンパ球の表面にある糖たんぱくを標的とし、リンパ腫の一部で使えます。トラスツズマブはHER2というこれも細胞表面の糖たんぱくを標的とし、適応疾患は乳がんです。ベバシズマブはVEGF(血管内皮細胞増殖因子)を標的とし、適応疾患は大腸がんです。これはがん細胞そのものではなく、がんの血流を支える血管に作用し、がんに酸素や栄養を運ぶ新しい血管ができるのを妨ぎます。
このように、分子標的治療は実用化されましたが、がんの本質はまだ謎に包まれた部分が多く、標的として理想的な分子を見つけ出すためには、がんの本質を分子レベルでさらに解明する必要があります。
