続がん50話
15 進歩する分子標的治療
井上正宏
近年、「分子標的治療」の考えに基づく治療薬が、がん治療に使われ始めています。
分子標的治療とは、がんの本質に関係する特定の分子を標的(狙い撃ち)にして、その分子の作用を特異的に抑える(あるいは活発にする)治療法のことです。がん研究が分子レベルで進んだことが、この治療を出現させた背景にあります。
抗がん剤開発は、がん細胞を殺傷する効果のある既存の物質をもとにして始められましたが、現在は生物学としてのがん研究に基づき、理論的に薬をつくる時代に入りました。従来の治療薬も、詳しいことが解明されていないだけで、何らかの分子を標的としているのですが、開発の初めから特定の分子を標的にしていたわけではありません。
また、従来の抗がん剤は正常細胞にもダメージを与えるため、強い副作用を伴っていましたが、分子標的治療の場合、理論的にはがんだけに作用するため、副作用が軽減することも期待されています。しかし、人のからだにどのように作用するかを完全に予測することは現段階では難しく、実際に予期しない影響が出たり、新たな副作用が明らかになるケースもあります。
標的の方法は、現時点では抗体あるいは小分子化合物が応用されています。抗体を人に安全に使えるようにする技術や、小分子化合物を標的分子の構造に基づいて合成する技術など、開発技術は格段に進歩しています。
