がん50話
29 全身療法の選択
稲治英生
近年、乳がんの治療は大きく様変わりしました。局所の治療である手術という方法は必要最小限にされ、代わりに全身療法である薬物療法の治療が主流になってきました。背景には、手術後に起こる他臓器への再発も、しょせんは乳がんが発見された時点での目に見えない微小転移が後日増殖してきたものと理解されるようになったことがあります。 乳がんの薬物治療には大きく分けてホルモン療法と化学療法があります。術後どのような治療を行うかの決定は、まず再発する危険性を評価することから始まります。 すなわち、リンパ節転移の状況やしこりの大きさ、年齢など数項目の情報をもとに再発の危険性を推定し、それとホルモン療法が効くかどうかの目安との組み合わせで、ホルモン療法、化学療法、あるいはその併用のいずれかが選択されます。 こうした選択は、これまで医師の経験に委ねられることが多かったのですが、今では科学的根拠(エビデンス)に基づいた治療内容が求められるようになり、エビデンスに基づいたガイドラインに沿って、全国的にほぼ均一の治療が受けられるようになってきました。患者さん向けのガイドラインも昨年刊行されています。 また、HER2(ハーツー)という遺伝子の産物を持った乳がんでは、がんの増殖などに関係する分子を狙い撃ちにする「分子標的治療薬」の一種である「トラスツズマブ」の使用が有効です。今までは、HER2陽性乳がんで再発したケースのみがその対象でしたが、HER2陽性乳がんの術後治療薬としても期待されており、近々わが国でも術後の使用が認可される見通しです。
