がん50話
28 乳がん治療の最前線
元村和由
乳がんの場合、腋(わき)のリンパ節にがん細胞がとぶ(転移する)こと=図=があるため乳房の手術に続き、腋の下のリンパ節をすべて切除する「腋窩(えきか)リンパ節郭清(かくせい)」を行います。この手術の後、多くの患者さんに腕のむくみ、しびれ、痛みなどの合併症が生じます。もともとリンパ節に転移のない乳がん患者さんは全体の6割を占め、このような患者さんに腋窩リンパ節郭清は不必要です。 最近、腋窩リンパ節郭清に替わる画期的な手術法が考案されました。乳がん細胞が最初に流れ込む特別なリンパ節である「センチネルリンパ節」が存在し、このリンパ節を摘出するだけで、腋のリンパ節にがん細胞がとんでいるかどうかを正確に診断できることが分かりました。このセンチネルリンパ節だけの摘出で済めば、合併症も防げます。 乳がんのしこりの周りに診断用の薬剤を注射すると、薬剤はリンパの流れに乗ってセンチネルリンパ節に到達します。この薬剤を取り込んだリンパ節を摘出するのが「センチネルリンパ節生検」です。 府立成人病センターでは1997年に日本で初めて、この手術療法を行いました。これを受ける患者さんの多くは、乳房のしこりに対しても、乳房を残す手術が行われますので、手術によって受ける身体の損傷は最小限のものとなり、手術後も手術前とほとんど変わらない生活が送れるようになります。 センチネルリンパ節生検は転移診断をより正確にするのみならず、患者さんのQOL(生活の質)を向上させることができ、今後、わが国において乳がんの標準的な治療法になるものと考えられます。
